休日の読書で知るリアルな海外ライフ
「ぼやきつぶやき イギリス・ニッポン」(高尾慶子著・文春文庫)
愛ある辛口のイギリス評・日本評が、真の姿を追い求めて。
英国でのハウスキーパー勤務や英国人男性との結婚・離婚を経た著者が
現実のイギリスと海の向こうから眺めた日本を、脚色を廃して評したエッセイ集。
ときに厳しい表現で、愛する両国を糾弾します。外国で暮らすことのシビアさと
イギリス生活の冷静な分析はイギリス留学を志す女性の安心バイブルとなるでしょう。
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■冒頭からいきなり度肝を抜かれる辛口トーク。
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ロンドンの日本領事館での役人の態度に立腹したかと思うと
ルーシー・ブラックマンさんとリンジィ・アン・ホウカーさんの
殺人事件から浮かび上がる日本人男性の激辛評。
イギリスの医療と日本の医療からそれぞれの抱える問題を提起。
イギリスに長く暮らす著者の目から、愛すべき日本の国が
つらく、貧しく見えてきたさまが厳しい言葉の合間に透けて見えます。
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■英語ができなかった時代の青春
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Booking Office(予約券売所)を本屋と間違えた外国人を笑えない時代から
英語の電話が怖くて思わず「ガチャン!」と切ってしまったこと、
脱走の「desert」と食後のデザート「dessert」を間違えて大笑いされ
裂く「tear」を涙「tear」と勘違いした若き日々も綴ります。
留学するなら、誰もが直面する話でも「今だから笑える話」になるのは
イギリスでたくましく生き抜いた著者ならではの説得力です。
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■スイス・ドイツへの旅行
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イギリス留学の利点は、大陸へのアクセスの良さ。
著者も、それを生かして、スイスやドイツへの旅行へでかけます。
国際列車に乗り、ときに飛行機を駆使し、心躍る活動的な旅です。
各地での友人たちとの触れ合いと、地元の美味しい食事、
そしてそれぞれの土地に浮かび上がる国民性の考察がまた面白い!
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■移民、宗教、イギリス、日本
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移民大国であるイギリスにはさまざまな宗教と文化が混在しています。
著者はカトリック教徒でありながら、広い目で宗教と移民が抱える問題をとらえて
次々と問題を提起しています。
ブリティッシュ・エアウェイズ(英国航空)でヒースロー空港勤務の職員が
首から下げている十字架のチョーカーを外せとの命令が下り、
会社を相手取っての訴訟とメディアへの異議申し立てでイギリス中が大騒ぎになります。
現在、イギリスに多く居住するイスラム教徒や他にも多数存在する宗教が
イギリス社会に複雑な影を落としています。
著者なりの考察はこれから移民を受け入れていくであろう日本にとって
何かの提言となるものかもしれません。
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■国籍について
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イギリスの永住権を持ちながら、日本国籍をかたくなに保持していた著者。
日本国民であることに矜持を持っていたが、近年、英国国籍を取得するべきかどうか
悩んでいると言います。
「日本人でなくなること」著者の悩みは深く、今も続きながらも
国籍を変えた日本人女性の意見を紹介しながら考察するラストの章は心に迫るものがあります。
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